【概要】
廃棄される貝殻を有効活用し、教材やその他の利用ができるように工夫した。
動画
・準備物
アワビの貝殻、耐水サンドペーパー、水、トレイ、歯ブラシ、ピペット、塩酸(HCl、1㏖濃度。磨く用のもの。漬け込む用は別)、ピカール(金属磨き)、ティッシュペーパー、使い捨て手袋、保護メガネ
・操作手順(※数日を要する操作)
- 操作前日以前に、薄い塩酸にアワビ貝殻をつけておく。(※高濃度では溶けてしまうので注意!)
- トレイ上で、アワビ貝殻を水をかけながら耐水サンドペーパーで擦る。
- アワビに塩酸(1㏖濃度)をピペットを用いて滴下し、歯ブラシで擦る。ある程度磨いてはまた塩酸をかけて歯ブラシで擦る。
- ある程度汚れが落ちて光沢が見られれば、しっかりと水洗いを行う。
- ピカール(金属磨き)を用いてティッシュペーパーでさらに磨き、光沢を出す。
・留意点
- 貝殻の購入はフリマアプリ等で可能。
- 塩酸濃度が高いと、光沢が見られる真珠層まで溶けてしまい、穴が開く等の可能性が出てしまう。
- 塩酸を用いるので、必ず手袋、保護メガネを着用して行う。
原理
①光沢が見える原理
サザエやアワビの貝殻の内部には、炭酸カルシウムの結晶と微量のタンパク質が積み重なった層状の組織「真珠層」がある。真珠層がカラフルに見えるのは、特定色素が存在しているのではあるわけではなく、薄膜層での光の反射・屈折の結果、特定波長が干渉し合う光の構造色によるものである。層の厚さによって、強められる色は異なるので、全体としてはシャボン玉の光彩やオーロラのようにいろいろな光が混じって微妙な色合いとして観察される。
貝殻の表面の石灰質は、炭酸カルシウムを主成分とした、コンキオリンというタンパク質とある種の多糖類によって構成されている。実験では、希塩酸を直接注いでいるが、高濃度だと、肝心の真珠層まで溶かし去ってしまうこともあるので、濃度を調整しながら操作する必要がある。
また、真珠層を切り取って穴を空けるなどすれば、ちょっとした貝細工として楽しむことも出来るため、工芸品への興味関心を誘う窓口になるかもしれない。
②気体の発生
貝殻の主な成分は炭酸カルシウム (CaCO₃) で、塩酸は塩化水素 (HCl) の水溶液である。そのため、貝殻に塩酸を加えて二酸化炭素 (CO₂) が発生するということは、CaCO₃とHClが反応してCO2が発生すると考える。
炭酸カルシウムは塩酸に溶けて二酸化炭素を発生する...
CaCO₃ + 2HCl → CaCl₂(塩化カルシウム)+ H₂O + CO₂ ・・・①
CaCO₃はカルシウムイオン (Ca²⁺) と炭酸イオン (CO₃²⁻) からできており、塩酸の中では、HClは水素イオン (H⁺) と塩化物イオン (Cl⁻) に完全に分かれている。CO₃²⁻は、H⁺が多く存在する(酸性)溶液ではこれを受け取って炭酸 (H₂CO₃) という分子にまで変化する性質がある。さらに、H₂CO₃はH₂OとCO₂に変化する性質がある。
これをまとめると...
CO₃²⁻+ 2H⁺ → H₂O + CO₂ ・・・②
CaCO₃はCa²⁺とCO₃²⁻が存在してはじめて,水に溶けない安定な形で存在することができる。したがって、上の反応でどんどんCO₃²⁻が奪われていくと、Ca²⁺もどんどんCaCO₃から出てくることになる。
式②の両辺に、実際には反応していないCa²⁺と2Cl⁻を加えると式①の形になる。ただし、水溶液中ではHClはH⁺とCl⁻に、CaCl₂はCa²⁺と2Cl⁻にそれぞれ完全に分かれていることに注意しなければならない。
生成したCO₂は一部は水溶液中に溶存するが、溶解度が低いためほとんどは大気中へ抜けて行ってしまうので、二酸化炭素が発生している様子が観察できる。
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※都留文科大学理科教育の一環