【概要】
簡単で安価な材料を用いて放射線の軌跡観察容器を作成、エタノール蒸気中に放射線が通過した飛跡を観察する。
動画(※動画は都留文科大学化学実験Ⅰの一部)
VCP活動動画
準備物
300mlビーカー、スポンジ付き隙間テープ、黒色紙、ピンセット、キャンプ用のマントル、ドライアイス、トレイ(今回は代わりに雑巾使用)、無水エタノール 3ml、ラップ、小型ライト、ネオジム磁石、1ml駒込ピペット、わりばし、モナザイトしょう石、ミニ試験管(※あれば使用推奨:塩ビパイプ、軍手)
操作手順
- 300mlビーカーの内底に、内底の形に切った黒色紙を敷く。
- ビーカー上部の内側に、スポンジ付き隙間テープを貼る。(※必ずしもビーカーの円周分必要ではない)
- ピンセットでキャンプ用のランタンのマントルの切片を黒色紙の中心に置く。(※立体的に盛り上がるようにセットする。固定していないので動かないように注意すること。)
- トレイ上にドライアイスをセットし、その上にビーカーを乗せる。(※ビーカーが転倒しないような大きさのドライアイスを用意すること。平衡を保ちつつ、ガムテープなどで固定しておくとよい。)
- スポンジ付き隙間テープのスポンジ部分全体を1ml駒込ピペットを用いて、無水エタノールで浸す。(※黒色紙が少し浸る程度で十分。足りない場合や長時間観察する場合は適宜追加し、テープがはがれない程度の量に留める)
- ビーカーにラップをして塞ぎ、観察する。(※しわを残さないようにしっかりと張りながら取り付ける。)
- 観察の途中でモナザイトしょう石を加えて放射線の違いがあるかを観察する。
- 割りばしをネオジム磁石で挟んだ後、マントルに近づけて飛跡が変化するかを試してみる。
留意点
- 塩ビパイプを軍手などで擦って静電気を起こし、ラップに近づけてから観察するとよい。
- もし全く観察できない場合はモナザイト系線源を用いる。
- 扱う放射線はごくわずかなため、無用の誤解を招かないように注意する。
- ランタンのマントルは現在入手が難しい。また、メーカーによっても差が出るので注意する。
- 今回の場合になるが、マントルよりモナザイトしょう石の方が、飛跡を観察しにくかった。
解説
①元素の放射性崩壊
自然界に存在するあらゆる物質はわずか90種類程度の元素から構成されているが、元素が別の元素に変化する場合がある。この変化が放射性崩壊であり、原子力で知られるウラン238の場合は、トリウム234やラジウム226、ラドン222等の数多くの核種を経て、最終的に安定した鉛206にたどり着く。その崩壊の過程で放出されるのが放射線で、その形態によってα・β・γというような区分けがされている。
②ウィルソンの霧箱の改良版
崩壊の過程で放出される放射線を間接的・簡易的に観察する方法がある。放射線が空気を通過する際、空気を構成する原子(窒素や酸素)に当たり、その中の電子が弾き飛ばされて陽イオンが生成することを利用するというものである。過飽和状態の蒸気中でこの放射線の電離作用が起こると、生成した陽イオンが凝結核となり、周囲にある水が集まって水滴が生じる。放射線の道筋に沿って霧が発生し、まるで飛行機雲のような形で飛跡が観察されるのである。スコットランドの物理学者ウィルソンは、過飽和状態での霧の発生の研究を通じ、凝結核となる塵やゴミを除いても霧のような飛跡が生じることに着目した。彼は、空気中に生じたイオンが凝結核となっていると考え、それが放射線の電離作用によるものであるということを明らかにし、この研究は1927年のノーベル物理学賞の受賞につながった。これが、いわゆるウィルソンの霧箱実験で、その後のラングスドルフ拡散型霧箱へと拡張されている。
③放射線源はマントル
飛跡の観察には、容器内部に過飽和状態を作ることが必要で、水より揮発しやすいエタノールを用いて容器下部をドライアイスで強烈に冷却している。大地や宇宙からの自然放射線(能)の観察も可能であるが、実験ではキャンプ用ランタンに使われる繊維(マントル)の小片を利用する。マントルには放射性物質トリウムがごくわずかに含まれており、石油に湿らせた繊維が燃焼する際に、より輝きを増す効果がある。また、放射線は荷電粒子であり、磁石を近づけて軌道を曲げることも出来る。なお、放射線の飛跡の観察において、α線は太くて長め、β線は縮れて折れ曲がって短めであるなどの区別も可能である。
④エタノールを用いる理由について
蒸気圧が水よりも高い→どんどん蒸発し過飽和状態がつくりやすい。
⑤放射線は磁石で曲げられる?
マントルに磁石を近づけると、直線状に観測できた放射線が引き寄せられるように曲がるらしい。上手く観測は出来なかったが、それらしいものは観察できた。
⬇️【磁石を近づけていない時は直線的に見える】
⬇️【磁石を近づけると、カーブが見られる?】
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※都留文科大学理科教育の一環