鉄と硫黄の化合

今回は鉄と硫黄の化合を行ってみました。

 

動画(※動画は都留文科大学理科教育法の模擬授業の一部)

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・準備物

鉄粉 7g、硫黄粉末 4g、薄い塩酸 10ml(5ml×2回分)、乳鉢、乳棒、試験管 3本(混合粉末用に太いもの2本、塩酸10ml用に細いもの1本)、試験管立て、スタンド、駒込ピペット、磁石、秤量皿(大) 2枚、薬包紙 2枚、脱脂綿、ガスバーナー、着火ライター、濡れ雑巾、白衣、保護メガネ

 

・操作手順

  1. 鉄粉7gと硫黄粉末4gを計りを用いて、秤量皿に量りとる。また、試験管に薄い塩酸10mlを量りとる。
  2. 乳鉢で鉄粉と硫黄粉末を3分以上よく混ぜる。
  3. 混合粉末を2枚の薬包紙の上に、片方には1/4、もう片方には3/4分に混合粉末を分ける。
  4. 太い試験管に、片方は1/4の混合粉末を入れる。もう一本の試験管には3/4の混合粉末を入れる。その際、隙間が無くなるように、机上で試験管の底をトントンと軽く叩くとよい。(※薬包紙を筒状にして入れるとやりやすい)
  5. 3/4分の粉末入りの試験管の口に脱脂綿を詰める。(※後で取り出すので、試験管の口を塞ぐだけ。奥まで詰めない。)その後、スタンドに試験管を斜めに固定し、混合物の上部に炎が当たるようにする。f:id:VCPteam:20211205233225j:image
  1. 加熱部分が赤くなったらすぐに火を止めて加熱を中止し、様子を観察する。
  2. 反応後、暫く冷やす。その間に、1/4粉末入り試験管に磁石を近づけてみる。
  3. 時間が経ったら濡れ雑巾で試験管を包んで完全に冷ます。(※加熱部分ではなく試験管の口をもつこと)
  4. 冷めた後の試験管に磁石を近づけて様子を観察する。
  5. 1/4粉末入り試験管と加熱後の試験管に、塩酸をそれぞれ5mlずつ加えて様子を観察する。
  6. 様子を観察したらすぐに水入りバケツに試験管を沈めて反応を止める。

・留意点

  • 有毒な気体が発生するので、換気を十分に行うこと。また、安易に嗅ぐことはしない。
  • 試験管を冷ます際や加熱時には火傷に注意する。

鉄粉 【Fe】 と硫黄粉末【S】 を試験管に入れて加熱すると、すぐに反応が始まり、赤熱状態が観察される。発生した熱によって自発的に反応が進行し、数分で完結するというものである。反応物の鉄は磁石につくが、反応後に生成する硫化鉄 【FeS】 は、磁性がない。また、薄い塩酸を加えて、気体(水素)を発生するかなど、反応物と生成物の両者を比べ、単体と単体が化合して、別の性質の物質が生成したことを確認することを主な目的とする実験となっている。今回の動画では、水素は上手く観察できなかった気が…

反応式としては、

Fe + S → FeS

コンセプトはシンプルで、実験操作の容易、反応も赤熱状態から自発的に進行する様子などが観察できるので、なかなかやりがいのある実験のひとつと言える。しかし、これほどの事故報告がなされている理由として挙げられる点は、

①粉末の硫黄の一部が加熱時に燃焼し、二酸化硫黄 SOが発生してしまう点。

実験操作の最初の段階で、硫黄粉末を用いる関係、どうしても一定濃度の二酸化硫黄が発生してしまうという実情がある。特に、アルミホイルに粉末を包み込んで砂皿の上で燃焼させるという操作方法が紹介されている教科書もあり、慎重な取り扱いが必要である。アルミホイルに粉末を包むというのは難しく、密閉も困難と考えると、試験管がまだ楽と言えるかもしれない。(ただし、汚れが落ちずに試験管を廃棄しなくてはいけなくなる問題もあったり…)

 

反応式としては、(加熱初期時)

S + O→ SO2

二酸化硫黄 SOは水と反応すると亜硫酸となる硫黄酸化物で、酸性雨の原因物質の一つとしても知られている。

反応式としては、

H2O + SO→ H2SO3

特に人体の呼吸器粘膜を刺激する有害な気体である。ここでは、試験管の上部に脱脂綿を詰め込んでいるが、それでも十分な換気が必要になる。

②生成した硫化鉄 FeS に塩酸を加えて、硫化水素 H2Sを発生させるという操作が含まれていることが多い点。

反応式としては、

FeS + 2HCl → FeCl2  +  H2S

発生した気体が硫化水素であることを匂いを嗅いで確認させるというものだが、わざわざ毒性の高い気体を嗅がせることに教育的な意義は感じられない。硫化水素は二酸化硫黄とは比較にならないくらい危険な気体で、かなり低い濃度でも中毒で死に至ることがあり、山岳地帯での事故がよく報告されている。嗅ぐよりも、硫化水素の存在を証明する他の方法を用いた方が良い。臭いがしたら危険と指導したり、思い切って塩酸を加える操作自体を取りやめることも視野に入れるとよい。

以上2点の理由をもって、特に注意を要する実験としました。さらに、反応後もかなりの高熱状態が続くため火傷を負いやすいことや、実験後の硫化物の処理においても気を抜くことができない。

換気をしっかりと行い、試薬の量を少なくしたりといった対策は必須であろう。そもそも嗅ごうとしなくても臭いはいやでもしてくる…

 

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都留文科大学理科教育の一環

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