「目 的」
炭酸ナトリウムの標準溶液を調整し、濃度不明の塩酸の濃度を中和滴定により求める。また、二段階滴定に必要な器具・指示薬の役割を理解し、それらの取り扱いに習熟する。
「実験理論」
- 酸と塩基による中和の原理:酸と塩基が反応すると、酸のH+とOH-が反応して水になり、その際に酸と塩基の性質が互いに打ち消される。このような反応を中和という。炭酸ナトリウムと塩酸の場合は、次のとおりそれぞれ1 molと2 molで過不足なく中和が起こる。
Na2CO3 + 2HCl → 2NaCl + H2O + CO2
この反応式により、それぞれの価数が2と1であり、塩である塩化ナトリウム2 molと水1 molが生成する。
なお、H+やOH-の濃度の小さい弱酸や弱塩基の場合でも、中和によってH+とOH-が消費されると電離が進んでそれらのイオンが供給されるので、中和反応に必要な物質量は酸塩基の強弱には無関係である。
- 中和滴定の仕組み:a価で濃度c [mol/L]、体積v mLの酸の水溶液に、b価で濃度c’[mol/L]、体積v’mL の塩基の水溶液を加えたとき、過不足なく中和したとする。このとき、中和反応の量的関係より次式が成り立つ。
a×c×(v/1000) = b×c’×(v’/1000)
- 二段階滴定:炭酸ナトリウムと塩酸は、2:1で過不足なく中和する。しかし、実際の中和反応は次のように二段階で進行すると考えることができる。
- Na2CO3 + HCl → NaCl + NaHCO3
- NaHCO3 + HCl → NaCl + H2O + CO2
中和にともなうpH曲線も特徴的な二段階曲線となり、①ではフェノールフタレインの変色域(pH8.0-9.8)と重なるが、反応が完結する②の中和点はやや酸性側で起こる。従って、酸と塩基が過不足なく終結する場面では、やや酸性側に変色域(pH 3.1 - 4.4)を持つメチルオレンジを指示薬として用いるのが適切である。
【㏗曲線は検索してみよう】
「準 備」
【器具】
50mLビーカー、100 mLコニカルビーカー、200 mLメスフラスコ、精密電子天秤、ガラス棒、ホールピペット、ろうと、ビュレット
【試薬】
無水炭酸ナトリウム、塩酸
【指示薬】
フェノールフタレイン、メチルオレンジ
左がメチルオレンジ、右がフェノールフタレイン。
「操 作」
- 50mLビーカーを精密電子天秤に入れて0gセットする。その後、配布された無水炭酸ナトリウムNa2CO3を約2g入れてから質量を精秤し記録しておく。
- 無水炭酸ナトリウムNa2CO3を少量の水により、ガラス棒を使い完全に溶解させる。その炭酸ナトリウム水溶液を注意深く200 mLメスフラスコに移し、純水を加えていく。洗ビンをうまく使い、ビーカーやガラス棒に炭酸ナトリウムが残らないように、しかも体積は200 mLの標線を超えないように調整する。これにより、塩基である炭酸ナトリウムNa2CO3水溶液の濃度C’が確定する。
- ホールピペットにより、正確にv’= 10 mL(炭酸ナトリウム水溶液の体積)を吸い上げ、100 mLコニカルビーカーに移す。正確を期すためには、純水を使い内部の炭酸ナトリウムを完全に洗い流す必要がある。
- コニカルビーカーにフェノールフタレイン指示薬[p・p]を1滴加える。(炭酸ナトリウムの物質量には影響しない)
- 濃度不明 C [mol/L]の塩酸約50 mLをビーカー(100 mL用)に用意し、ろうとを用いてビュレットに移し入れる。別の受け用ビーカー(100 mL用)を下に準備しておき、ビュレットの先の空気抜きをしておく。受け用ビーカーの塩酸は再利用せず廃棄する。
- ビュレット先端のしずくを受けビーカーで取り除き、ビュレット中の塩酸の上端が目盛り0より下にきていることを確認しておく。
- ビュレット中の塩酸の開始時の体積v1を記録する。目盛りは、小数点第2位まで目分量で読み取る。
- ビュレット下にコニカルビーカーを置き、炭酸ナトリウム水溶液に向かって塩酸を滴していく。
- フェノールフタレインの色が完全に消える寸前で止める。第一段階の中和時の体積vm を記録する。→ 結果表へ
- 今度は、メチルオレンジ指示薬[M・O]を1滴加える。(炭酸ナトリウムの物質量には影響しない)
- メチルオレンジ指示薬(黄色)の色が完全に変化してしまう寸前で止める。中和の第二段階時の体積v2 を記録する。→ 結果表へ
- ホールピペットで炭酸ナトリウム水溶液を吸い上げる操作を10回以上繰り返し、データを数多く取得する。ただし、ホールピペットの再利用時には、共洗い操作を行うこと。
「工夫と注意・片付けなど」
- ガラス器具の先端に注意して洗浄すること。
- ホールピペットやビュレットは逆さにして乾燥させること。
「観 察」
ホールピペットは立てておくと危険なため、試験管立ての下に写真のように横にしてしまう。
使用器具一覧。
炭酸ナトリウムを数回に分けて溶かし、ガラス棒を伝わせて 200 mLメスフラスコに移す。
炭酸ナトリウムを残さないように、洗ビンでガラス棒を洗浄しつつ、その液もメスフラスコ内に入れて、200 mLを超えないように調整する。
標線を越えているかどうかは、次で図説する。
『液面がへこんでいる部分の目盛りを読み取る。』
ビュレット。これの下に取り出した炭酸ナトリウムの入ったコニカルビーカーをセットする。滴定の際には、左手でつまみを持って滴定量を調整し、右手でコニカルビーカーを持つ。
「結 果」
回 |
v1 |
vm |
v2 |
v=v2-v1 |
判定 |
1 |
12.00 |
14.65 |
17.62 |
5.62 |
△ |
2 |
17.62 |
20.27 |
23.12 |
5.5 |
△ |
3 |
23.12 |
25.69 |
28.51 |
5.39 |
〇 |
4 |
28.51 |
31.30 |
34.02 |
5.51 |
〇 |
5 |
34.02 |
36.80 |
39.48 |
5.46 |
〇 |
6 |
39.48 |
42.45 |
44.95 |
5.47 |
〇 |
7 |
44.95 |
47.68 |
39.58 |
5.32 |
× |
8 |
39.58 |
42.21 |
44.89 |
5.31 |
〇 |
7回目の結果だが、塩酸が足りなくなったために、Vm測定後、一度 10 ml継ぎ足した。
二段階滴定の理想的な結果。右から左にかけて滴定が進んでいる。
計8回の結果の様子。
この中から実験として明らかに失敗したものを除外(×印)し、有意なデータ(〇印)を取り出して平均を求める。
中和に要した塩酸の体積v = v2-v1
上記の結果から、平均値は、
(Vの合計) / 8 = 43.58 / 8
= 5.4475
v= ( 5.448 )mL
「考 察」
中和の公式(a×c×(v/1000) = b×c’×(v’/1000))を利用し、それぞれの未知数を求める。
- 無水炭酸ナトリウムNa2CO3水溶液の濃度C’の求め方: C’= n/v
ただし、n = m/Mのうち
m:無水炭酸ナトリウムの精秤質: 1.999 g
M:無水炭酸ナトリウムの分子量: 106
メスフラスコの体積v:200 ml = 0.2 L
よりC’= (1.999/106)/0.2
= 0.01885…/0.2
= 0.019/0.2
= 0.095
0.095 〔mol/L〕
- 価数aとb:化学反応式により確定する。
Na₂CO₃ + 2HCl → 2NaCl + H₂O + CO₂
この反応式により、それぞれの価数が2と1であり、塩である塩化ナトリウム2 molと水1 molが生成する。
よって、a: 1 b: 2
- v’:ホールピペットの体積は、10 ml。
- v:実験結果の表から確定する。
(Vの合計) / 8 = 43.58 / 8
= 5.4475
v= ( 5.448 )mL
以上のデータを中和の公式に代入し、未知の塩酸の濃度 C mol/Lが算出される。
a×c×(v/1000) = b×c’×(v’/1000)
1・c・(5.448/1000) = 2・0.094・(10/1000)
c = 2・0.095・(10/1000)/(5.448/1000)
= 0.34875…
0.349 〔mol/L〕
- 実験操作の過程で、そのようなことがどうデータに影響するのかを考察する。
今回滴定中に、コニカルビーカーを塩酸が良く混ざるようにと適宜揺らしていた。そのために空気中のCO₂が溶け込んで、酸性濃度が高まり、理想の結果よりも塩酸の濃度が高く出てしまったと考える。
監督官をしていただいている先生のブログ(らくらく理科教室)はこちら→らくらく理科教室 (sciyoji.site)
先生のYouTubeチャンネルはこちらから→らくらく科学実験 - YouTube
※都留文科大学理科教育の一環
メモ
・価数は、塩酸は2倍で太刀打ち出来る。→元の力は1、価数も1。炭酸ナトリウムは2倍の塩酸に単体で釣り合う。2倍の力を元々持っているから価数は2。