振動反応 ~BZ(ベローゾフ・ジャボチンスキー)反応~

【概要】

鉄錯体の触媒として臭素酸イオンとマロン酸が、自発的なリズムを作り出すことを視覚的に確認する。

 

動画リスト→振動反応 (BZ反応) - YouTube

 

動画(※動画は都留文科大学化学実験Ⅰの一部)

youtu.be

 

振動反応の観察動画

youtu.be

 

試験管バージョン

youtu.be

 

猫型でやってみた

youtube.com

f:id:VCPteam:20220705235433j:image
f:id:VCPteam:20220705235430j:image

 

準備物

100ml三角フラスコ、臭素酸ナトリウム(NaBrO₃) 6.0g、純水 90ml(70+10+5+5)以上、マグネティックスターラー、濃硫酸(H₂SO₄) 2.0ml、3ml駒込ピペット、50mlビーカー 2つ、マロン酸(CH₂(COOH)₂) 1.2g、臭化カリウム(KBr) 0.6g、薬包紙、硫酸鉄(Ⅱ)(FeSO₄)・7H₂O 0.030g、o-フェナントロリン(C₁₂H₈N₂) 0.0450g、5ml駒込ピペット、試験管 3本、10ml駒込ピペット、シャーレ(直径9㎝)、ろ紙 2枚、はさみ

 

操作手順

【N液の作成】

  1. 100ml三角フラスコに臭素酸ナトリウム6.0gをはかりとる。さらに、純水70mlを加え、マグネティックスターラーを用いて完全に溶かす。その後、濃硫酸2.0mlを3ml駒込ピペットを用いてはかりとり、加える。f:id:VCPteam:20220705220138p:image
    f:id:VCPteam:20220705220124p:image
    f:id:VCPteam:20220705220131p:image

【M液の作成】

  1. 50mlビーカーにマロン酸1.2gをはかりとり、純水を加えて全体を10mlとする。f:id:VCPteam:20220705220147p:image

【K液の作成】

  1. 50mlビーカーに臭化カリウム0.6gをはかりとり、純水を加えて全体を5mlとする。f:id:VCPteam:20220705220154p:image

【FP液の作成(※今回は作成済みのものを使用した。指導員がまとめて作成すると、試薬のはかりとりが楽になる。下記に示すのは上記の液に対しての一回分(一班分)の量)】

  1. 薬包紙に硫酸鉄(Ⅱ)0.03gとo-フェナントロリン0.045gを精秤し、試験管に入れ、純水を加えて全体で5mlとする。(※今回は調整済みFP液を5mlはかりとった)

【振動反応の観察】

  1. N液にM液とK液を加え、マグネティックスターラーを使いよく撹拌する。臭素(褐色)が発生するので十分に換気をすること。f:id:VCPteam:20220705220200p:image
    f:id:VCPteam:20220705220207p:imagef:id:VCPteam:20220705220214p:image
  2. 臭素の発生が収まり無色透明になったところで、FP液を5ml駒込ピペットで4ml加える。→完成液f:id:VCPteam:20220705220236p:image
    f:id:VCPteam:20220705220242p:image
    f:id:VCPteam:20220705220223p:image
    f:id:VCPteam:20220705220229p:image
    f:id:VCPteam:20220705220250p:image
  3. 振動が開始するので適当なところで完成液を3本の試験管に、10ml駒込ピペットで10mlずつ分けて様子御を観察する。f:id:VCPteam:20220705220303p:image
    f:id:VCPteam:20220705220310p:image
    f:id:VCPteam:20220705220257p:image
    f:id:VCPteam:20220705220317p:imagef:id:VCPteam:20220705220409p:image
    f:id:VCPteam:20220705220402p:image
  4. シャーレ下にろ紙を敷き、観察しやすいようにしておく。
  5. ろ紙をはさみを用いて切り、形を作る。(※観察しやすいように形の大きさは小さくしておく)
  6. 完成液から5ml駒込ピペットで3~4mlほどシャーレに移す。ろ紙を敷いたシャーレにそれを加えた後、FP液を1ml追加する(使用する駒込ピペットは同じものを使いまわすこと)。シャーレを軽く揺らして全体を混ぜた後、中央に形作ったろ紙を静かに置く。f:id:VCPteam:20220705220337p:image
    f:id:VCPteam:20220705220350p:image
    f:id:VCPteam:20220705220344p:image
    f:id:VCPteam:20220705220357p:image

 

留意点

  • 臭素が発生するので換気を十分に行う。
  • 試験管等の細長い容器を用いると、色の変化が観察しやすい。
  • シャーレの液面で縞模様が観察されない場合は、FP液を適宜追加してみる。
  • 振動が始まってろ紙を置く際、風等でろ紙が動いてしまい綺麗な振動が観察できなくなってしまうので、エアコンや窓の風には注意する。
  • FP液は保管できるが、古くなりすぎると使えなくなる可能性があるので注意。
  • 使用したガラス器具はしっかりと洗浄する。

 

解説

①振動反応

 このリズムやパターンが自発的に作り出される化学振動は、水面に出来るような液面が上下する振動ではなく液面は水平のままで化学反応のみが模様をつくりながら伝わっていく。また、通常の波のように液面を上下して干渉し合うことがなく、波同士が衝突すると互いに消失してしまう。これは、呼吸や心臓の鼓動、神経パルスに似通っていて大変興味深い(波がスルーしていく。物理現象の波とは違う特徴)。完成液が数秒間隔で青⇄赤褐色の変化を繰り返す。シャーレで薄い槽を作らせると絶妙な色の縞模様ができ続ける。化学反応が、まるでシーソーゲームのように、左右に大きく偏りながら振動していく。自発的なリズムを作り出す複雑な化学反応は、6種類の物質が関わり、10以上の反応が同時に進行していく。特に重要な反応は、臭素酸がマロン酸を酸化する反応である。ちなみに、ガスの発生(恐らく二酸化炭素)もしっかりと確認できる。f:id:VCPteam:20220705220620j:imagef:id:VCPteam:20220705235128p:image
f:id:VCPteam:20220705235133p:image

 

2BrO₃⁻ + 3CH₂(COOH)₂ + 2H⁺ → 2BrCH(COOH)₂ + 4H₂O + 3CO₂

 

②2種類の鉄イオン錯体の関与

 この反応家庭で2種類の鉄イオン(Fe²⁺ ⇄ Fe³⁺)の酸化還元反応が目まぐるしく起こる。それぞれの鉄イオンがo-フェナントロリン3分子と錯体をつくり、別の色(赤と青)を呈する。

 

[Fe(C₁₂H₈N₂)₃]²⁺ ⇄ [Fe(C₁₂H₈N₂)₃]³⁺ + e⁻

 還元型(赤色)    酸化型(青色)

 フェロイン     フェリイン

 

ただし、これらの錯体は反応の前後で完全に変化しきってしまうのではなく、電子の受け渡しの媒体に過ぎない触媒としての役割をするのみである。他に、Br⁻やHBrO₂⁻なども、電子の受け渡しに関与しながら全体の反応式上には現れない物質である。それぞれが複数の反応で消費されたり自己増殖したりと絶妙なバランスの上に反応が進行していく。なお、この振動反応は酸化還元を伴うので、その電圧変化をセンサーにより捉えることも可能である。

 

③BZ(ベローゾフ・ジャボチンスキー)反応

 この振動反応は、ソ連のBelousov(ベロウゾフ)が1951年に発見し、その後同じくソ連のZhabotinsky(ジャボチンスキー)が実験の追試を行い、化学反応のリズムが明瞭な形で現れる実験系を確立している。もともと、生物のエネルギー代謝に関わる重要な反応であるクエン酸回路の研究がスタートで、体内で有機物がどのような触媒で酸化されていくかを研究している過程で発見された。

 

④観察結果

  1. N液にM液K液を加えた時の様子→臭素が発生:ハロゲン単体、常温で褐色の液体
  2. 試験管に分けた時の様子→振動のグラデーションが見られる。シリンダーだと色の帯が見えることもある。駒込ピペットでも観察できる。
  3. シャーレでの変化の様子→縞模様、ろ紙片が刺激になる?

 

⑤化学振動と物理振動

 物理的に水面を進む波は、衝突すると液面が上下して影響(干渉)し合う。化学振動の場合、液面は水平のまま化学反応のみが模様をつくりながら伝わっていく。肺呼吸や心拍、神経が伝わっていく現象にも近い。

 

⑥不思議に思うこと

 試験管に振動が始まった完成液をとってみると、濃度は同じなのに振動が順に起こっていく。通常なら振動するタイミングは同じになるべきはずなのに、試験管に初めにとったもののほうから振動が始まっている。規則があることから、空気中にとることによって反応に遅れもしくは促進が起こるのか、振動が壁面、空気中を伝わって干渉するのか。もしくは、攪拌が不十分であり濃度差ができているのかもしれない。然し、観察を続けると振動の波長がズレてくる。何故そうなるのかについて考えてみると面白いかもしれない。何度も実験を行って結果を追求してみたい。

 

【振動の様子。左が一番早くピペットで取り出した完成液。左から右へ色の移り変わりが動いていくが、暫く観察するとズレてくる】

f:id:VCPteam:20220705220409p:image
f:id:VCPteam:20220705220448p:image
f:id:VCPteam:20220705220402p:image
f:id:VCPteam:20220705220441p:image
f:id:VCPteam:20220705220434p:image

 

【↓ズレてきた時の様子。真ん中が一番輝いてから左の色が変わり、最後に右が変わる。少し時間が空いてからまた真ん中から振動が始まるというズレが生じる。】

f:id:VCPteam:20220705220751p:image
f:id:VCPteam:20220705221016p:image
f:id:VCPteam:20220705221009p:image

 

【↓三角フラスコとの比較。三角フラスコ内が初めに色が変化し、順に試験管内部の液体の色が変化する。何故タイミングがズレるのか?】

f:id:VCPteam:20220705235327p:image
f:id:VCPteam:20220705235319p:image

 

【振動の様子】

f:id:VCPteam:20220705235335j:image
f:id:VCPteam:20220705235338j:image

f:id:VCPteam:20220705221649p:image
f:id:VCPteam:20220705221655p:image
f:id:VCPteam:20220705221636p:image
f:id:VCPteam:20220705221642p:image
f:id:VCPteam:20220705221614p:image
f:id:VCPteam:20220705221601p:image
f:id:VCPteam:20220705221621p:image
f:id:VCPteam:20220705221702p:image
f:id:VCPteam:20220705221555p:image
f:id:VCPteam:20220705221608p:image
f:id:VCPteam:20220705221626p:image

 

f:id:VCPteam:20220705221511p:image

 

監督官をしていただいている先生のブログ(らくらく理科教室)はこちららくらく理科教室 (sciyoji.site)

 

先生のYouTubeチャンネルはこちらかららくらく科学実験 - YouTube

 

都留文科大学理科教育の一環