ペットボトルに銀メッキ

【概要】

グルコースの還元性を利用した銀鏡反応によりプラスティック面に銀を還元析出させる。

 

動画(※動画は都留文科大学化学実験Ⅰの一部)

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準備物

ペットボトル(約280mlの小さいもの。中が濡れた状態で保存し直前に水を捨てる。ボトルは、お茶か青森りんごのものがよいとのこと)、フミン、NaOH、純水、駒込ピペット(1と5ml用)、ろうと、フラスコ、塩化スズ2㏖/L、HCl、硝酸銀、グルコース、茶色ビン、三角フラスコ(50ml用)、6㏖/L NaOH、2‐アミノエタノール、タオル、紙、薬包紙、電子天秤、トレー

 

操作手順

A液の操作

  1. A液(フミン 0.1g + NaOH 0.2g + 純水で全量5ml)を駒込ピペット(5ml用)で入れ、キャップをして1分間よく振る。f:id:VCPteam:20220730145749p:image
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  2. A用廃液用フラスコ(200ml)にろうとをさし、振り終わったA液を入れる。f:id:VCPteam:20220730145802p:image
  3. ペットボトル内部を水道水でよく洗う。f:id:VCPteam:20220730145810p:image

B液の操作

  1. B液(塩化スズ 0.1g + 2㏖/L HClで全量5ml)を駒込ピペット(5ml用)で入れ、キャップをして1分間よく振る。【※濃塩酸 0.825ml + 純水 → 5ml】f:id:VCPteam:20220730145817p:image
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  2. B用廃液用フラスコ(200ml)にろうとをさし、振り終わったB液を入れる。f:id:VCPteam:20220730145838p:image
  3. ペットボトル内部を水道水でよく洗う。

C液の操作

  1. C液(硝酸銀0.085g+純水で全量5ml:0.1㏖/L)を駒込ピペット(5ml用)で入れ、キャップをして1分間よく振る。
  2. C用廃液用フラスコ(200ml)にろうとをさし、振り終わったB液を入れる。
  3. ペットボトル内部を水道水でよく洗う。

 

このA~Cの操作を2セット行う。ただし、順番は関係ない。(例:A→B→C×2、A→C→B→C→B→A…etc)

 

グルコースの操作

  1. A~Cの下処理が終わったら、ペットボトル内部に薬包紙で取ったグルコース粉末 0.5gを、ペットボトル内部全体にまぶす。(※グルコースを全体にまぶす際はペットボトルを回転させながら行うと上手くいく)f:id:VCPteam:20220730145857p:image
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  2. 全体にまぶしたら保冷しておく。(※今回は操作時間短縮のため省略)

メッキ液の操作

  1. メッキ液(硝酸銀 0.17g + 純水で10ml:0.1㏖/L → 茶色ビン内で調整)を三角フラスコ(50ml)内に入れる。
  2. 6㏖/L NaOH 1mL (0.5g+純水で1.0ml:1.5g)と、2-アミノエタノール 1.0mlを加えて保冷しておく。(※今回は調整済みなので作成操作は省略)
  3. 保冷してあるメッキ液 10mlをピペットで取ってペットボトルに注ぎ込む。f:id:VCPteam:20220730145916p:image
  4. キャップを閉め、タオルでキャップ部分を持って振り混ぜる。(※体温で温めないように注意すること)f:id:VCPteam:20220730145954p:image
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仕上げ

  1. 銀メッキがある程度落ち着いたら内容物を廃液用トレーに捨て、水で軽く優しく洗う。(※振りすぎるとメッキが逆にはがれるので注意。また、水で洗浄する際も注意すること)f:id:VCPteam:20220730150007p:image
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  2. 紙上に逆さにして乾かす。f:id:VCPteam:20220730150020p:image

留意点

  • 使用溶液はあらかじめ調整しておくとよい。
  • 回収した廃液は再使用することも可能。仮にA~C液が足りなくなった時は、廃液のものを使用させるとよい。
  • 操作の仕方や調整液によっては色味に変化が出る可能性がある。
  • 今回の方法では、通常の銀鏡反応よりも試薬等が少量で済むので良い。
  • 仕方によっては大型のペットボトルでも可能。

 

解説

①銀錯イオンの形成

 硝酸銀水溶液にアンモニア水を加えると、一時的に少量の水酸化銀(AgOH)の白色沈殿ができる。

Ag⁺ + OH⁻ → AgOH ↓

この水酸化銀は不安定で、実際には一定量アンモニアが追加されると酸化銀(Ag₂O)の暗褐色沈殿となる。

2Ag⁺ + 2OH⁻ → Ag₂O ↓ + H₂O

さらに過剰のアンモニア水を加えることで、沈殿は溶けて錯イオン【[Ag(NH₃)₂]⁺】を形成し水に溶解するようになる。

Ag₂O + 4NH₃ + H₂O → 2[Ag(NH₃)₂]⁺ + 2OH⁻

これはジアンミン銀(Ⅰ)イオンであり、配位子のアンモニア二分子により、直線状の立体構造を構成する。f:id:VCPteam:20220730150443j:image

 

②銀鏡反応

 銀錯イオンがグルコースのような還元性のある物質と反応すると、銀イオンが還元されて単体の銀が析出してくる。この水溶液は、トレンス試薬とも呼ばれるが、ガラス面に銀を還元・析出させたものを反対側から見ればガラス層を持つ鏡となるので、一般的には銀鏡反応として知られている。また、今回メッキしたボトルに光を通すと、紫や青い透過光が観察できる。

 

アルデヒド基の還元性

 アルデヒド基を分子内に持つ有機化合物(一般式 RCHO)は、ジアンミン銀(Ⅰ)イオンを還元し、自らは酸化されてカルボン酸(RCOOH)となる。

RCOH + 2[Ag(NH₃)₂]⁺ + 2OH⁻ → RCOOH + 2Ag + 4NH₃ + H₂O

実験ではグルコースを用いたが、この糖は水溶液中で六員環構造(ピラノース型:二種類存在する)と鎖式アルドース型で平衡を保っている。鎖式アルドース型は、アルデヒド基を持っているので還元性を示すが、水溶液中では著しくその濃度(約0.002%:1㏖/L、25℃)が低いため、還元反応はゆっくり進行していく。これは、人間の体内でも同じである。ゆっくりなために体温の調整ができ、腹持ちもよい。これが急激になると体内発火もあり得る。f:id:VCPteam:20220730150456j:image

 

④マイルドな還元反応

 糖類の一種である紙(セルロース)が空気中で燃焼する際、激しくて素早い酸化反応が起こる。しかし、このグルコースのように還元型の成分濃度が極端に低いと、反応に必要な量の供給が間に合わない。動物が糖類(炭水化物)を食べて体内でグルコースに分解、酸化されていく反応がゆっくりである理由でもある。特に、このグルコースの平衡状態を保つ性質は、生命活動の特性に大きく関わっている。

 

⑤銀という物質

 高い反射率である元素記号Ag。ラテン語で光り輝くという意味で、電気を通しやすくさびにくい貴金属。自然銀→モロッコ

 効果や装飾、精密機械部品に用いられるほか抗菌作用の製品にも利用。使っていくと黒ずむいぶし銀。人工的にいぶし銀を作る方法もある。

 

グルコース

 糖の一種。ブドウ糖。生物の活動のエネルギー源。O₂呼吸がエネルギー源生成には必要。銀を還元析出させる作用で使用。

 

【下処理後。プラスチック面に金属が引っかかりやすいようにアンカー(引っかかり)を付けた。】f:id:VCPteam:20220730145857p:image

 

【メッキされていく様子】

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