カルタミン色素の抽出とセルロース繊維への染色 (紅花染め)

【概要】

ベニバナからカルタミンを塩基性塩として抽出し、クエン酸による酸の遊離を活かして繊維への固着をはかる。

 

動画(※動画は都留文科大学化学実験Ⅰの一部)

youtu.be

 

準備物(2~3人で1組想定)

染める用の布、わりばし、タコ糸、輪ゴム、ベニバナ 25g、絞り用の布(30×30㎝、サラシ布)、2%炭酸カリウム水溶液(400ml時は炭酸カリウム8g、水352g。500ml時は炭酸カリウム10g、水490g。)、トレイ、ビニール手袋、クエン酸粉末 20g程度、紙コップ、はさみ、ビニール袋(持ち帰るため用)、500mlビーカー、300mlビーカー、ガラス棒

 

操作手順

下準備

  1. 染める用の布をわりばしやタコ糸、輪ゴム等を使い、模様をつけるための下準備をしておく。縛った部分は、染色液につけるとたちまち緩んでしまうので、かなりきつめに縛っておく。(※後で解きやすくするために、結ぶのではなくひもを挟んでおくとよい。もしくは後ではさみで切るとよい。)

 

染色まで

  1. ベニバナ25gを絞る用の布と輪ゴムを用いてテルテル坊主状に包む。その後、水を張ったトレイで水に浸けながらよく揉んで黄色の染色液を完全に抜く。(※流水にさらしながらでも可能。しっかりと抜くほど良い仕上がりになるが時間と力が必要なので、交代で行うとよい。)
  2. 2%炭酸カリウム水溶液を400~500ml調整(400ml時は炭酸カリウム8g、水352g。500ml時は炭酸カリウム10g、水490g。)し、ペットボトルに入れる。
  3. 綺麗に洗ったトレイ上で、ベニバナの包みに少しずつ2%炭酸カリウム水溶液をかけながら、包みをよく揉んで紅色素を溶出させる。また、絞ったつど紅色素を500mlビーカーに移していくこと。(※炭酸カリウム水溶液は最終的にすべて使い切ること。)
  4. 下準備をした染める用の布を、500mlビーカーからトレイに移した染色液に浸し、全体になじませる。
  5. クエン酸を紙コップにとり、トレイ内に少しずつ加えてかき混ぜながら溶かし込み、中和させる。同時に、染める用の布を揺り動かして色素をよくなじませる。発泡が見られなくなったところでクエン酸の投入を停止する。
  6. 染める用の布を良くしぼり、水洗いをした後に布を開いて乾燥させる。

 

留意点

  • 色素が手につくので、気になる場合は手袋をしっかりとすること。
  • 仕上げた染め布は、塩基性溶液に触れさせないこと。洗濯等は特に注意。
  • 布を開くのにはさみを使う際は、布まで切らないように注意。

 

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解説

①ベニバナとカルタミン

 ベニバナ(紅花)には主に二種類の色素が含まれているが、そのうちの赤系色素がカルタミン(Carthamin)である。この天然色素は分子内にフェノール性ヒドロキシ基を含む共役系構造を沢山持つポリフェノールの一種である。そのままでは水に溶けにくいが、炭酸カリウム水溶液を加えると、カリウム塩(フェノキシド)を形成し、水溶液に溶出してくる。ちなみに、ベニバナは、発酵させないと染料に出来ないので、今回使用したものも発酵している。そのため、匂いが独特。(カルタミン分子は複雑なので、その骨格を簡略化して▢と置き、フェノールとし扱う)

 

▢ーOH   +   K⁺   →   ▢ーO⁻K⁺   +   H⁺

フェノール   アルカリ   フェノキシド

 (難溶性)           (水溶性)

 

 そこに、紅色素よりも酸性の強いクエン酸が加わると、カリウム塩となっていた紅色素が遊離し、繊維に固着してくるのである。

 

 ▢ーO⁻K⁺   +   H⁺  →  ▢ーOH   +   K⁺ 

フェノキシド    酸    フェノール

 (水溶性)           (難溶性)

 

②世界最古級の染色技術

 日本の伝統工芸において特筆すべき技術ではあるが、ベニバナ自体は中東原産、エジプト第六王朝時代の碑文にその記述がある。わが国には、シルクロードを経て来航し、初期大和政権じだいのなら纏向遺跡にはその痕跡も発見されている。明確な資料としては、高松塚古墳美人画等が知られ、当時すでに皇族、宮廷女官等が紅花染料による色鮮やかな服で身を飾っていたことが明らかになっている。万葉集にも「くれなゐ(紅)」の名で歌に詠みこまれている。なお、平安期に記された『延喜式』から、アルカリとしてカリウムを含む草木灰、弱酸は梅の実からクエン酸を得ていたらしいが詳細な技法は不明な点も少なくない。最近は、人体内の活性酸素を消したり、脳疾患を防止する働きがあるらしいこともわかり、医薬原料としてにわかに注目される物質ともなっている。

 

③紅色素カルタミンによる染色の過程

 カルタミンはフェノール構造を数多く持つ。水に難溶性であるポリフェノールの一種。→弱酸(かなり弱い微酸レベル)→アルカリと反応して塩をつくる→塩になると水溶性となるので色素は水側に抽出される

▢ーOH   +   K⁺   ⇄   ▢ーO⁻K⁺   +   H⁺・・・①

フェノール   アルカリ   フェノキシド

 (難溶性)           (水溶性)

塩基性:右方向への反応が進行

酸性:逆反応

 

クエン酸の役割

 フェノールよりも強い酸(クエン酸)の添加によって水素イオン(H⁺)が増大し、①は左へ進行、元の難溶性の色素の戻る(ルシャトリエの原理)。→弱酸であるフェノール(カルタミン)が遊離してくる。水溶液には溶けていられなくなるため、水に不溶の木綿繊維(セルロース)引き寄せられる→繊維に固着

 酸性下では鮮やかな紅色。アルカリ塩になると暗褐色。なお、炭酸カリウムは水溶液中で電離しており、形式的には次のように記述できる。

 

K₂CO₃ → 2K⁺ + CO₃²⁻

 

しかし、CO₃²⁻は加水分解され、

 

CO₃²⁻ + H₂O → HCO₃⁻ + OH⁻

 

となって水溶液はアルカリ性となっている。そこにクエン酸が加わると中和反応が起こり、二酸化炭素の発泡が見られる。

 

H⁺ + HCO₃⁻ → H₂CO₃ → H₂O + CO₂↑

 

実際には、まず炭酸カリウムがこの反応によって中和され、その結果、ポリフェノールであるカルタミンが遊離してきたと考えてもよい。二酸化炭素の発泡停止をもって色素遊離も完了とみなす。

 

⑤操作の初めで分離した黄色い色素について

 サフラワーイエロー:Safflower Yellow と考えてよい。絹だと綺麗に染められるらしい。黄色が残っていると真紅色ではなくやや橙色を呈することがあるため水溶性の黄色色素を除去する必要がある。この色素を木綿繊維へ染色させる場合には、アルミニウムイオンのような金属イオン種によって媒染効果を高めるとよい。

(※多繊交織布:ベニバナに含まれる2色素は繊維素材により様々な色を呈する。)

 

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